G&U技術研究セ ンター 劣化するマンホール蓋の 課題と解決策 都市を守る下水道 都市の安全と安心を科学する技術広報誌 G&U Ground and Underground 2 0 2 5 Vol.14 GU Ground and Underground
V 2025 ol. 14 C O N T E N T S 表紙画像:natalllenka.m/PIXTA(ピクスタ) Prologue 下水道事業と マンホール蓋における課題 4 強靱で持続可能な下水道システムの 構築に向けて ~事業マネジメントの推進 国土交通省 水管理・国土保全局 上下水道審議官グループ 下水道事業課長 吉澤 正宏 氏 10 マンホール蓋の課題 近年の豪雨被害と対策 長岡技術科学大学大学院 教授 斎藤 秀俊 氏 14 大雨に伴うマンホールの 被害状況と安全対策の現在 国土技術政策総合研究所 上下水道研究部 下水道研究室長 安田 将広 氏 巻頭言 2 下水道は「道」という広い視野を ―下水道管きょの長寿命化技術― 早稲田大学 名誉教授 小泉 淳 氏
Close UP 新たな性能規定 標準耐用年数の2倍の耐久性と防食性能 18 マンホール蓋のVEによる 製品・サービス価値の最大化へ 早稲田大学 名誉教授 小泉 淳 氏 20 耐久性向上と防⾷ 次世代型マンホール蓋の性能規定 日本下水道新技術機構 研究第二部長 泉谷 信夫 氏 28 更なる長寿命を実現した 新次世代型マンホール蓋 次世代型高品位グラウンドマンホール推進協会 橋本 徹 氏・石田 康平 氏 42 G&Uインフォメーション Column 40 マンホール蓋製造会社の震災復旧支援 令和6年能登半島地震 Report 36 能登半島地震における被害状況と 復旧に向けた取組 国土技術政策総合研究所 上下水道研究部 上下水道研究官 小川 文章 氏 能登上下水道復興支援室長 山上 訓広 氏
2 2025 vol.14 G&U 内部から腐食する下水道の特殊環境 事前の内面被覆は耐久性向上に有効 下水道管きょの長寿命化技術について考え るとき、まず、電力、通信、鉄道、道路など の一般的なシールドトンネルと下水道トンネ ルとの大きな違いは、外部からの漏水で腐食 するか内部の流水によって腐食するか、とい う点です。同じ流水でも水道や放水路などの 管路であれば清 せい 水 すい に近いものが流れています が、下水道管きょは、中を流れるのが有機物 を含む汚水であるため、発生する硫酸などに よって内部から劣化が進行することが一番の 特徴です。 一般のシールドトンネルでは、セグメント の継手やひび割れからの外部からの漏水で劣 化が進行します。もちろん下水道でも外から 浸入する水はありますので、これによる劣化 は問題になります。さらに、このような水は 下水処理に余分な負荷をかける料金が取れな い水になります。下水道の管きょは外部から の漏水による腐食に加えて、 内部からの腐食 も受ける特殊な環境に置かれています。 防食という点では、一般のシールドトンネ ルは基本的に内側からの腐食を想定していま せん。しかし、 セグメントの中には内面に鋼 材が多く露出する仕様のセグメントもあって、 それらは鋼材の部分に重防食処理がされてい ます。鋼製セグメントや合成セグメントなど 外面側が鋼製のものは、腐食で想定される減 肉量として100年で1mm程度の腐食しろを 考慮して製作されています。 下水道を「道」と考えて、管きょの長寿命化 を図るには、たとえば、あらかじめ樹脂系の 材料などで被覆しておき、内部からの腐食に 備える方法が考えられます。実際、都内の下 水道幹線では建設当初から更生工法のように 内面被覆を行った事例もあります。そのよう な事前の腐食対策は、初期コストはかかりま すが、耐久性を向上させる上で非常に有効な 方法ではないでしょうか。 腐食進行を加速化する管体のクラック メカニズムの科学的検証が今後の課題 近年は下水道シールド工事で「二次覆工一 体型セグメント」と言われるセグメントが多 く使われるようになりました。これは、 セグ メントの内面側に防食層として無筋コンクリ ートを50mm程度盛って一体化することで、 二次覆工の工程を不要にしようとしたセグメ ントです。しかし、これを下水道管きょの施 早稲田大学 名誉教授 小泉 淳 氏 下水道は「道」という 広い視野を ―下水道管きょの長寿命化技術― 巻頭言
3 2025 vol.14 G&U 工に用いることは、耐久性や長寿命化を考え ると、私は少し違和感を覚えます。 二次覆工一体型は、無筋コンクリートの部 分にも地山の荷重がかかるため、曲げひび割 れの発生が避けられません。下水道管きょで はこのひび割れの存在が腐食の進行に大きく 関わるからです。下水は清水と違って汚水で すので濃度があり、 微小なひび割れでもその 中に入り込む水は濃度差によってつねに入れ 替わります。下水道内に発生した硫化水素が 硫酸に変化してひび割れに入ると、コンクリ ートを内部からボロボロにしますし、また、 ひび割れが鉄筋位置まで達していれば鉄筋も 腐食します。 昔は下水道では小口径のものが多いという こともあって、 鋼製セグメントが多く使われ ており、コンクリートで二次覆工を行うのが 一般的でした。二次覆工は、地山の荷重で変 形した後にセグメントの内側に施工するため、 荷重を直接受けないことからひび割れが発生 しにくいのです。もちろん二次覆工コンクリ ートも腐食はしますが、厚さもかなりあるの で、 腐食が内部に達するまでには相当な時間 がかかります。腐食を遅らせる上で、二次覆 工には大きな意味があります。 このように、下水道管きょの中には濃度を もつ液体が流れているため、ひび割れが腐食 に大きく影響しています。しかし現状では、 このひび割れの幅がどの程度までなら許容で きるのか、どの程度の幅を超えると腐食の進 行に大きな影響を与えるのか、という検証が まだきちんと行われていません。下水道の耐 久性を考える上で非常に重要な事象ですから、 この解明に取り組むことが喫緊の課題だと感 じています。 下水道は「道」という広い視野を ストマネ・アセマネ実践の端緒として 下水道関係の委員会に参加すると、メンバ ーの多くは水処理分野の専門家が占めていま す。しかし、下水道は処理がすべてではない し、管きょをもっと大切に考えてほしいと思 います。私が一番言いたいのは、下水道は「道」 だということです。管きょという道には必ず マンホールがあり、そこにはマンホール蓋も 必要で、処理施設も含めてこれらが全部そろ って初めて「下水道」と呼べます。下水道の長 寿命化は、下水道というシステムを全体とし て考えなければならないはずです。ほかが健 全でも、ポンプ場1ヵ所、管きょ1本が壊れ れば下水の流れが止まって処理ができなくな ります。 一つのシステムとして下水道を見ると、マ ンホール蓋はごく小さなものですが、管きょ の重要な一部であることは確かです。しかし、 マンホール蓋には膨大なストックがあり、15 年性能の蓋だとその耐用年限を超えた蓋が相 当数に上り、 損傷した蓋の事後対応が追いつ いていない現状です。 今回発刊された新マニュアル「アセットマ ネジメントの実践に向けた次世代型マンホー ル蓋の技術マニュアル」に沿った30年性能を 有する蓋が広まれば、事後対応にも多少は余 裕が生まれるでしょう。その生まれた余裕の 中で、しっかりストックの状態把握、情報管 理を行い、事後保全的対応から予防保全的対 応へと転換していただくことが重要です。下 水道は連続した一連のシステムです。マンホ ール蓋だけでなく、管きょ全体、下水道シス テム全体までを意識した適切なストックマネ ジメント、さらにはアセットマネジメントへ の実践につなげていただけるように期待して います。 P R O F I L E【こいずみ・あつし】 昭和45年早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、昭和54年同大学 院で工学博士を取得。平成30年早稲田大学教授退職後、同年名誉 教授に。専門は地盤工学やトンネル工学など。現在は企業との共 同研究や技術指導に加え、多くの技術委員会で要職を務める。 下水道は「道」という広い視野を
4 2025 vol.14 G&U Prologue 下水道事業とマンホール蓋における課題 国土交通省は令和6年7月、下水道施設の老 朽化問題を背景に、下水道事業を将来にわた り継続させるためには「事業マネジメント」 の取組を進めていくことが重要であるとして 「下水道事業における事業マネジメント実施 に関するガイドライン―2024年版―」を発刊 しました。この「事業マネジメント」とは何か、 今回のガイドラインが目指すところや重要性 について、マンホール蓋の位置付けも交えつ つ、同省下水道事業課の吉澤正宏課長にご解 説をいただきました。 本格的なマネジメント時代へ――老朽化対 策待ったなし、管路更新率の着実な向上へ ――今回のガイドライン発刊の背景となる、 下水道事業が直面している課題について教え てください。 ご承知の通り、下水道処理人口普及率は8 割を超えて(令和5年度末に81.4%)、これま でに整備された下水道管路延長は約49万km、 処理場数は約2,200箇所と、膨大なストックを 抱えるようになりました。これらを良好に維 持管理しながら、下水道は日々、住民の快適 で安全・安心な生活を支えるとともに、良好 な水環境の保全等に貢献しています。 この下水道ストックの多くは、高度成長期 以降に急速に整備されており、今後、標準耐 用年数を超えた施設の割合が急拡大し、老朽 化が進行していきます。 現在、下水道管路の標準的な耐用年数であ る50年を超過している管路延長は約3万km (全体の約7%)、10年後には約9万km(全体 の19%)、20年後には約20万km(全体の40%) に達する見込みです。 1年間に全管路延長のどれくらいが更新さ れたかを表す指標が「管路更新率」ですが、令 和4年度で0.15%、年間約700kmの管路が更 新されています。水道と比べると後発のイン フラであり低い数値に留まっていますが、こ れから耐用年数を超える管路延長が急拡大し ていく中で、管路更新率を着実に向上させて 行かなければなりません。良好な下水道サー ビスを継続的に提供していくため、老朽化対 強靱で持続可能な 下水道システムの 構築に向けて~ 事業マネジメントの推進 吉澤 正宏 氏 国土交通省 水管理・国土保全局 上下水道審議官グループ 下水道事業課長
5 2025 vol.14 G&U 強靱で持続可能な下水道システムの構築に向けて~事業マネジメントの推進 策は待ったなしに取り組む必要があります。 老朽化対策・改築更新は持続可能な下水道 システムへと作り替えて行く絶好の機会 一方で、様々な社会状況の変化があります。 まず人口減少の問題。人口のピークを過ぎて もう15年以上経過し、これから先、人口減少 のスピードはさらに大きくなります。本格的 な人口減少にも対応した施設規模の適正化を 図りつつ改築更新を進めていく必要がありま す。 また、増大する災害リスクへの備えや、カ ーボンニュートラルの実現に向けた脱炭素化、 食料安全保障の強化等の観点から下水汚泥資 源の肥料利用の拡大など、これからの下水道 に期待される新たな役割にも対応していかな くてはなりません。 課題山積ですが、改築更新のタイミングは、 これからの時代にふさわしい強靱で持続可能 な「下水道システム」へと作り替えていく、絶 好の機会とも言えます。本格的な維持管理・ 更新の時代を迎え、下水道事業全体の最適化 の観点から、最適で効率的なマネジメントが 求められています。 「事業マネジメント」とは何か――老朽化 対策を起点に下水道事業の持続性と価値 を向上させるための取組 ――そうした下水道の、老朽化対策をはじめ とする様々な課題の中で、「下水道事業にお ける事業マネジメント実施に関するガイドラ イン」が刊行されました(令和6年7月、国土 交通省上下水道審議官グループ)。この国土 交通省で取り組まれている「事業マネジメン ト」について教えてください。 ガイドラインの「はじめに」の記載から紹 介しますが、これからの時代の要請に的確に 対応し、それにふさわしい下水道サービスの 持続性の確保に向けては、「新たな施策や未 来に向けた新たな挑戦をスピーディーかつ着 実に実践し、効率的なメンテナンスを実現す ることが必要」です。 このため、適切な使用料の設定などの経営 改善や、ウォーターPPPなどの官民連携、広 域化・共同化などによる執行体制の強化とと もに、下水道施設の改築更新のタイミングを 逃さず、適切な規模・機能を備えた施設にフ ルモデルチェンジしていくという思想を持っ て、ストックマネジメント計画などの各計画 の策定、見直しや新たな施策の導入検討を行 うことが重要です。 「事業マネジメント」は、財源の確保や執行 体制を強化する取組と相まって、施設の老朽 化対策を起点として、地域の特性に応じたサ ービス水準の達成――利用者や社会に対する 下水道インフラの価値向上に向けた各施策の 目標と優先度を適切に定めて、効率的な事業 運営を行い、下水道事業を将来にわたり継続 させるための取組ということになります(図 1)。 これをどのように実施すればよいのかをま とめたものが、7月に公表した「下水道事業 における事業マネジメント実施に関するガイ ドライン―2024年版―」です。一般的な検討 手順などを示していますが、各地方公共団体 の実情を踏まえた独自の検討を行うことで、 さらに実効性のある「事業マネジメント」の 取組を実践していただければと考えています。 これからの社会の中で、下水道がどのよう な貢献をしていくのか、そのための持続可能 な「下水道システム」とはどういう姿になる のか。それに向けてどのようなスケジュール で進めていくのが効果的なのか――大変難し い課題ですが、それを考える絶好の機会とし て今を捉えて、事業全体を見渡したマネジメ ントを、ぜひ自治体の皆様方にはお願いした いところです。 下水道事業に係る運営方針や目標を明確に して、現状評価と課題抽出(C)、目標設定(A)、 施策相互の調整(P)、各施策の実施および進
6 2025 vol.14 G&U Prologue 下水道事業とマンホール蓋における課題 捗管理(D)というCAPDが1つにつながる ことがマネジメントです。CAPDサイクル の各フェーズに関わるすべての部署が共有し、 組織全体で取り組んでください。 ガイドライン第4章「事業マネジメント の向上に資する取組」に注目 ――事業マネジメントの向上に向けた取組に ついて、特にDXの取組についても教えてく ださい。 各施策の目標と優先度の設定では、財源や 執行体制等の制約を踏まえて「サービス」「リ スク」「コスト」がトレードオフの関係にある ことに留意が必要と記載していますが、目指 すべきサービス水準、価値の向上に当たって は、財源確保や執行体制の強化等の事業マネ ジメントの向上に向けた取組が重要です。 ガイドラインの第4章にはそうした取組― ・経営改善による財源の確保に関する取組 ・広域化・共同化、ウォーターPPPをはじめ とした官民連携による執行体制の強化に関 する取組 ・DXの取組 について記載しています。 DXについては、効率的なメンテナンスや 生産性の向上に不可欠な取組です。特に、施 設情報や維持管理情報のデータベース化は、 マネジメントサイクルを回すための基盤とな るものです。また、データによって課題が見 える化されることで、民間事業者の参入が促 事業マネジメントガイドライン(p.2)掲載 (図1)下水道事業における事業マネジメントのイメージ
7 2025 vol.14 G&U 強靱で持続可能な下水道システムの構築に向けて~事業マネジメントの推進 されるとともに、効果的な改善提案にもつな がります。官民連携を進めていくうえでも大 事な取組です。 いま、令和7年度までにすべての都市で管 路台帳情報の電子化を完了することを目指し ていますが、中小規模の都市を中心に進捗が 遅れています。このような都市においても、 むしろ、執行体制が脆弱であるからこそ、官 民連携や広域連携の基盤としてデータベース 化が急がれると言えます。 また、7月には前総理から上下水道DXの 推進についての指示がありました。これを踏 まえ、メンテナンスの精度や効率性を向上さ せる、既に実用化され実績のある様々なデジ タル技術について、分かりやすいカタログを 本年度中に策定し、今後5年程度で全国への 普及展開を進めていきます。 新しい時代に相応しい機能を備えた蓋に、 計画的に更新していくことが重要 ――マンホール蓋について課題等がありまし たら教えてください。 マンホールは、管路施設の維持管理上、重 要な施設です。特にマンホール蓋は管路施設 への入口であると同時に、歩行者や車両の通 行を担う道路の一部です。安全面や維持管理 面から必要な機能が発揮できるよう適切に維 持管理、機能向上を含む改築更新を進めてい く必要があります。 日本グラウンドマンホール工業会が出して いるデータによれば、現在、設置から30年以 上経過しているマンホール蓋が約350万基(推 定を含む)、これが今後10年で700万基に拡大 する見込みであること、1年間の改築更新数 が約10万基で更新率は0.6%程度にとどまる とのことですが、先ほどの管路更新率の話と 主要な施策 指標の名称(算出方法) 単位 指標の解説 管路施設の緊急度Ⅰの施設数 (未対策の緊急度Ⅰの延⾧(時点は任意)) (未対策の緊急度Ⅰのマンホール本体(時点は任意)) (未対策の緊急度Ⅰのマンホール蓋(時点は任意)) km 基 基 老朽化対策(ストックマネジメント)の管路施 設における管理指標 管きょの調査率 (調査実施済延⾧/点検・調査計画延⾧) % 老朽化対策(ストックマネジメント)の管路施 設における管理指標 施設の老朽化率(管渠) (耐用年数超過管渠延⾧/下水道維持管理延⾧) % 下水道管渠の維持管理延⾧のうち、標準的耐用 年数を超過した管渠の総延⾧の比率。劣化の度 合いをそのまま表現した指標ではなく、定期的 な機能の点検・調査の実施及び計画的、段階的 な改築(更新)の参考となる指標である。 管渠改善率 (改善(更新・改良・修繕)管渠延⾧/下水道維持管理 延⾧) % 下水道管渠の維持管理延⾧のうち、1年間に更 新・改良・修繕された管渠延⾧の比率。標準的耐 用年数に達している、いないにかかわらず、施 設の改善をどの程度進めているかを示す指標 である。計画的な調査が前提となることから、 管渠調査率との一体的な評価が望ましい。 下水道サービスに対する苦情件数(10万人当たり) 苦情総件数/下水道処理人口×105 件 1年間に下水道管理者が通報を受け文書化した 下水道処理人口10万人当たりの苦情件数。この 指標が高いと、ユーザが下水道事業に対する関 心が高くサービス向上に対する期待度が大き いともいえる。住民からの苦情は、下水道サー ビスの向上への貴重な情報と捉え、正確に記録 し内容とともに指標の経年変化を分析する。 (表1)客観的指標の例 事業マネジメントガイドライン(p.19)掲載 老朽化施設(ストックマネジメント) 管路施設
8 2025 vol.14 G&U Prologue 下水道事業とマンホール蓋における課題 同様、着実に更新率の向上を図ることが必要 です。ガイドラインの中でも下水道施設を構 成する主要な施設の一つとしてマンホール蓋 に関する老朽化対策の管理指標の例(表1)や 課題整理の例(表2)を掲載しています。 また、最近も急激な大雨によってマンホー ル蓋が飛散する事故がありましたが、気候変 動による降雨の激甚化や、都市の発展に伴う 交通量の増大など、マンホール蓋を取り巻く 社会状況も変化しており、マンホール蓋に求 められる機能、性能も変化しています。 「事業マネジメント」の考え方に基づき、下 水道事業の全体を見据えた最適な下水道シス テムを構築していく中で、新しい時代に相応 しい機能を備えたマンホール蓋への更新を一 体的に進めていくことが重要です。 下水道展で“次世代型”を見学――「データ 駆動型社会」の実現にも寄与するのでは 今夏の下水道展(2024東京)で私も次世代 型マンホール蓋(図2)を見せていただきまし た。30年を想定した長期の耐久性を備え、大 雨の時の圧力解放性能の向上はもちろん、耐 がたつき性能や耐スリップ性能、耐荷重性能 の向上、それから維持管理面では開けやすい といった蓋の開放性能の向上が図られたもの です。さらには、ライフサイクルコストの低 減や、将来の改築事業量の低減、維持管理に 係る職員の負担の軽減にも寄与するものとの こと、効果的なマネジメントの推進に期待が 第3章 事業マネジメントの実施手法 24 表 3-4 課題整理表【現状評価からの課題】(例) 現状評価からの課題(着手済施策) 項目 現状 目標 課題 優先度 実施施策 緊急度Ⅰ の管渠延 長 ○○m ○○m 老朽化が進行してお り、老朽化に起因した 道路陥没事故が発生し ていることから対策を する必要がある。 高 流下機能に与える影 響が大きく、また主 要道路に埋設されて いることから交通機 能への影響も大きい ため。 老朽化対策 (ストック マネジメン ト) 緊急度Ⅰ のマンホ ール(本 体) ○○基 ○○基 道路上に設置されてお り、劣化進行も早く、 交通障害等への影響も あることから、対策が 必要である。 高 流下機能や、交通機 能への影響が大きい ため。 老朽化対策 (ストック マネジメン ト) 緊急度Ⅰ のマンホ ール(蓋) ○○基 ○○基 道路上に設置されてお り、劣化進行が早く、 標準耐用年数も短く設 定されている。また、 機能不足の蓋が多く、 対策が必要である。 高 機能不足の蓋(平受 け構造や浮上飛散防 止機能なし)は、車 両通過でのガタツ キ・飛散や豪雨時の 蓋飛散によるリスク が大きいため。 老朽化対策 (ストック マネジメン ト) 健全度2以 下の施設 数 ○施設 ○施設 目標の施設と現状の施 設が同等であり、予定 どおりの事業量の対策 をすれば良い。 高 該当施設は水処理に 直接影響するもので あり、機能停止した 際の影響が非常に大 きいため。 老朽化対策 (ストック マネジメン ト) … 表 3-5 課題整理表【今後の取組課題】(例) 今後の取組課題(未着手施策) 項目 現状 目標 課題 優先度 主要な施策 下水汚泥 の肥料化 0% - 設備の改築予定の把握、肥料 の需要調査が未実施であるた め、基礎的な検討が必要 中 設備改築と合 せて実施 老朽化対策 (ストック マネジメン ト) 下水汚泥の 肥料化 温室効果 ガス排出 削減量 不明 - 設備の改築予定の把握、削減 量が不明確であるため、基礎 的な検討が必要 中 設備改築と合 せて実施 老朽化対策 (ストック マネジメン ト) 脱炭素化 … (表2)課題整理表【現状評価からの課題】(例) 事業マネジメントガイドライン(p.24)掲載
9 2025 vol.14 G&U 強靱で持続可能な下水道システムの構築に向けて~事業マネジメントの推進 高まります。 また、雨水貯留管などの水位情報を計測す る機能を備えたマンホールアンテナなどの話 題もあり、適切な避難情報の発信による安全 性の確保はもとより、様々な下水道情報の収 集、通信ツールとして「データ駆動型社会」の 実現にも寄与するのではないかと思います。 下水道施設と社会をつなぐマンホール蓋が、 時代の変化に的確に対応し、新しい時代の社 会に大きな貢献を果たすことを期待していま す。 事業マネジメントの推進で官民連携の円滑 化にも期待 ――地方公共団体、産業界へのメッセージを お願いします。 下水道は、住民の快適で安心・安全な生活 を支える重要なインフラであることは言うま でもありませんが、能登半島地震でも改めて、 生命を守るインフラ、生活基盤を支えるイン フラとして、災害時にも、その機能を確保す ることの重要性が再認識されました。この下 水道インフラを24時間365日支えているのが、 地方公共団体、そして現場で働く民間企業の 方々です。心より敬意を表する次第です。 下水道を取り巻く事業環境は益々厳しさを 増し、困難かつ多様化する課題の全体を見据 えたマネジメントが求められる時代です。 地域の特性に応じた下水道の価値向上に向 けて的確な事業マネジメントを実践し、強靭 で持続可能な下水道システムの構築に取り組 む自治体を、国はしっかりサポートしていき ます。 このような事業マネジメントの推進は、ひ いては、民にとっても魅力ある事業への転換 に通じ、官民連携がいっそう円滑に進むこと も期待しています。 下水道界の魅力アップに向けて、関係者一 丸となって一緒に取り組んでいきたいですね。 ――ありがとうございました。 P R O F I L E【よしざわ・まさひろ】 平成6年3月早稲田大学大学院修了。同年4月建設省入省後、24年4月国土交通省水 管理・国土保全局下水道部下水道事業課企画専門官、26年4月日本下水道事業団事業 統括部計画課長、28年7月国交省下水道部流域管理官付流域下水道計画調整官、30年 4月熊本市上下水道局技監、31年4月国交省下水道部下水道事業課事業マネジメント 推進室長、令和3年4月日本下水道事業団近畿総合事務所長、5年7月国交省下水道 部流域管理官、6年4月より現職。埼玉県出身。 日本下水道新技術機構「アセットマネジメントの実践に 向けた次世代型マンホール蓋技術マニュアル」p.95 掲載 (図2)次世代型マンホール蓋の製品例
Prologue 下水道事業とマンホール蓋における課題 10 2025 vol.14 G&U 2024年はゲリラ豪雨によるマンホール蓋 の飛散が世間の耳目を集めました。近年の、 豪雨の激甚化・頻発化のなかでマンホール蓋 にはどのような課題があるのか、また安全対 策は進んでいるのか――。水難学会の理事で、 マンホールに絡む水難事故研究の第一人者で もある長岡技科大大学院の斎藤秀俊教授にお 話を伺いました。 渦が人を集め、人を吸い込む ――近年、豪雨災害の激甚化・頻発化が顕著 になってきましたが、豪雨になると、マンホ ール蓋にはどのような問題がありますか。 一つはマンホールの蓋が完全に開いてしま うという問題です。豪雨で冠水した道路を歩 くと、そこには様々なトラップがあります。 その一つが蓋が開いたマンホールです。それ を知らずに近づくと、吸い込まれて事故にな ります。最近は少なくなりましたが、まだま だそのおそれはあります。 もう一つは、冠水した道路の蓋が開いたこ とで発生する渦です。子供たちが見てしまう と「あれ?何だろう」とつい近づいてしまう 可能性があります。吸い込まれる時の水の流 れは予想外に強く、水深が膝より下でも、水 の流れに後ろから足を取られて尻もちをつい て、そのまま吸い込まれてしまいます。 水が吸い込まれる様子を見てみたいという 好奇心から、本当に吸い込まれてしまうとい う危険性は、水難学会としてもこれが最もリ スクが高いと考えています。命に直結します。 私も研究所(G&U)でその渦を見ましたが、 あれは大人でも見たいと思ってしまいます。 危険です。 また豪雨という観点では、最近特に顕著に なってきた「エアハンマー」の問題です。マン ホールは坂道にもありますが、近年の豪雨で は、坂に、一気に、短時間に、もの凄い量の 雨水が流れることがあります。すると下水管、 雨水管でさばけなくなるから、管の中の空気 がどんどん上のほうに溜まっていって、マン ホール蓋を一気に押し上げます。これが「エ アハンマー」です。 長岡技術科学大学大学院 教授 一般社団法人 水難学会理事 斎藤 秀俊 氏 マンホール蓋の課題 近年の豪雨被害と対策 蓋の空いたマンホールへと水が 流れ落ちる様子(実験施設)
マンホール蓋の課題 近年の豪雨被害と対策 11 2025 vol.14 G&U 最近も蓋が飛散している事例がありますが、 今後もまだまだ続くのではないでしょうか。 飛散による二次災害にも相当気をつけなく てはいけません。 圧の逃げ道を。最も危険なのは蓋の固着 ――マンホール蓋に飛散防止の対策は施され ているのでしょうか。 蓋が上に飛び上がらないよう、完全に開か ないマンホール蓋がすでに開発されています。 例えば蝶番みたいなもので蓋と枠に遊びを 設けて、蓋をガタガタ言わせながら中の空気 を抜くものや、もともと蓋に穴が開いていて そこから空気が抜けるものもあります。万が 一圧力に耐えられなくなった時でも、蓋が片 開きにならないようになっています。そうい う対策のおかげで蓋が飛散する事故は少なく なっています。 固着の恐怖 それでも怖いのは、何年か前になりますが、 蓋そのものではなくて、蓋を止めている金具 と一緒に蓋が飛散する事故がありました。新 しい災害です。ショックでした。その蓋はよ く分かっていないのですが、ガタガタして空 気を抜くタイプだったとすれば、蓋が固着し て最後の最後まで空気の逃げ道がなくなった のかも知れません。これが一番怖いことです。 そうなると蓋の外のアスファルトに亀裂がで きてでドーンと飛ぶ。 技術の進展が新たな事故を引き起こす 私はよくいろいろなものを壊します(編注: ご専門は材料工学)。破壊工学ですが、最後 の最後まで耐えた時の材料ほど怖いものはあ りません。もうこの世のものとも思えないよ うな破壊の仕方で、だから途中で中途半端に 破壊した方が被害は少なくて済みます。 今は技術が進んだおかげで、集中豪雨でこ れまでに経験してきたような事故は、だいぶ 減ってきました。しかし、技術が進んだために、 壊れにくく、頑丈になりすぎたために、また とんでもないことが起きるかも知れません。 また、腐食による蓋と枠の固着も危険です。 下水道(汚水)ではどうしても硫化水素が発 生するので、硫酸による腐食が進みます。蓋 は鉄ですから、腐食するだけどんどん固着が 進み、圧が逃げられなくなります。 事故防止技術の変遷 ――蓋の飛散防止には、固着させないことが 肝要ということですね。そのほかに、マンホ ール蓋の事故防止、安全対策を教えていただ けますか。 事故防止の変遷をお話ししますと、昔の蓋 は、蝶番もなくて、そのままペタンと置いて あるだけなので、飛んで行くこともありまし た。それは危険なので、蝶番で留める蓋が出 てきました。蓋は開くけれども飛んで行くこ とはありません。 その次には、片開きだとマンホールの穴に 空気圧で フタが飛ぶ 水圧で噴水 溺水トラップに落ちる 下水管 川・池 大雨の排水 大雨で下水管が雨水をさばききれなくなる と、水が噴き上がったり空気の塊が蓋を一気 に押し上げるエアハンマー現象が起きる危険 性が高まる。また道路が冠水すると20㎝で 底は見えなくなり、溺水トラップが発生する (斎藤秀俊教授作成)
Prologue 下水道事業とマンホール蓋における課題 12 2025 vol.14 G&U 落ちる危険性が残るので、両方を蝶番で留め て、人間がしっかりと道具を使わない限り開 かないというタイプです。 これは蝶番みたいなもので蓋を抑え込むの で、今度は圧力が抜けなくなります。それで、 圧力を抜かすために、わざと遊びを作って、 ガタガタ言わせながら中の空気を抜く蓋が作 られました。 またマンホール蓋自体にも穴を付けて、そ こから空気を逃がすものもあります。これは 臭いが出てくるので、蓋の下には、臭気をで きるだけ外に出ないような工夫もされていま す。 こうしたいろいろな工夫はあるのですが、 穴のせいで臭いがしたり、蓋から水が噴き出 すと、メディアが来て喜んだように写真を撮 ったり「これは何なんだ」と言ったりするわ けですが、すべて安全対策なんです。 転落防止の点では、人が穴に落ちないよう に、入り口にはしごを置くという工夫もあり ます。これは下に降りる階段の役目と同時に、 吸い込まれることを防ぎます。良い対策です ね。普及も進んでいます。 かく言う私ですが、実はまだマンホールに 入ったことがなくて。最後はやはり、そこま でやらないといけないと思っています。 というのも、先日相模原で、下水管の中で 作業中に流された事故がありました(2024年 9月)。あれもひとつの水難事故です。 吸い込まれることへの対策は進んでも、中 から外へ出る対策、つまり中に入っている作 業員が短時間のうちに外に避難するという対 策は取られていないという現状ですね。こう したことにも取り組んでいきたいと思います。 取り替えるべき危険なマンホール蓋が どこにあるのか分からない ――そうした技術や工夫があれば、安心、安 全ですね。 そう言えるための大前提は、全てのマンホ ール蓋が、いまお話ししたような安全対策が なされているということです。しかし、現状 は全国の20%が置き換わっていません。 さらにその安全対策のないマンホール蓋が どこにあるのかが、分かっていないのです。 分かっていればすぐに取り替えるはずですが、 未だにマンホールの蓋が吹き飛ぶわけですか ら。大都市ならすべて置き換わっているかと いうと、そうではなかった。どのマンホール の蓋がいきなり開くのか、それが分からない ということが、今、一番の問題です。 国の予算で台帳整備を――蓋とため池は 似ているかも知れません 自治体には、本来、蓋を把握するための台 帳はあるはずですが、何といっても、全国で 1600万基とも言われるもの凄い数なので、一 個一個チェックしきれません。それである自 治体は“自分の近所のマンホールを写真に撮 って送ってください”運動みたいな。写真を 見ればすぐに分かるので、いつ設置されたの か不明な蓋を少しでも減らしていくような対 策が望まれます。 ――そこを打開するには、先生は、どのよう にお考えですか。 台帳がない状況は、ため池と似ています。 転落防止を考慮した蓋。万一蓋が空いたままになっても、 入り口に梯子を置くことで人が吸い込まれないようにし ている(斎藤秀俊教授撮影)
マンホール蓋の課題 近年の豪雨被害と対策 13 2025 vol.14 G&U ため池は今も全国に21万箇所ありますが、台 帳が整備されていなかった。そこに、ため池 がらみの事故が起きたり、台風や豪雨でため 池が決壊してその水に、最近でも、何人もの 人がのまれています。そこで国は、全国規模 でため池台帳作りを進めているところです (ため池の防災・減災に活用可能な補助事業。 令和6年4月農林水産省農村振興局)。 台帳作りには相当なエネルギーが必要で、 今あるため池ですら全部は確認できていませ ん。ということは、その文書が、もう役所の どこにあるのか分からない状態なのでしょう。 台帳作りは国の予算を使ってエイヤでやる。 国の大きな予算がドンとつけば、そこでみん なで一斉にやるようになります。マンホール の蓋は、ため池の数に比べてもっともっと多 いわけですが、全国一斉にという機運が盛り 上がれば、意外とこの問題は早く片付くのか も知れませんね。 自治体レベルでは無理です。国が台帳整備 事業といった形で、いまやっている危険ため 池の把握、危険用水路の把握から、危険マン ホールの全国規模の把握といった流れになる といいですね。 お金があれば改築、そして台帳化 お金がなければ啓蒙を ――自治体の皆様へ先生からのメッセージを。 お金が来てからやるものと、お金が来てい ないうちにやれるものがあります。 お金が来てからやるものは、当然マンホー ルの実体把握、それから老朽化マンホールの 蓋の交換、それらを記録した台帳の電子化で す。図面だけ残しておくのではなくて、後に なってすぐに検索できるようにしておくこと。 電子化されていないことがこれまでの台帳の 一番の問題点だったので、この際きちっと進 める。 一方、お金がない時分にやれることはとい うと、情報提供です。マンホールがどうなっ たら危険なのかといったことを知らせます。 もともと穴が開けられているマンホール蓋な ら大雨で臭いが湧き出てきたら、それは水が 噴き出す前触れだとか。蓋からカタカタ音が 鳴りだしたらすぐに避難しないと、一気に道 路が冠水する、それが始まる合図なんだと。 また一方でカタカタ音がして、一方で音がし ないのは、単に固着しているだけかも知れな いので、早くその場から離れましょうと、そ ういった啓蒙です。この異常は何々の合図で、 マンホールを見ると、今どれくらいの危機が 迫っているかが分かるみたいな。そういう情 報を日頃から住民に伝えて欲しいですね。 また、先ほどもお話しした近所のマンホー ルを写真にしてデータベース化するというの も、なかなか良いアイデアなので、いろんな ところで取り組んでもらえるといいですね。 ――ありがとうございました。 P R O F I L E【さいとう・ひでとし】 水難学者・工学者。1962年生まれ。本職の専門は材料工学で、ペンシルベニア州 立大学博士研究員、茨城大学工学部助手、長岡技術科学大学講師、助教授を経て 2002年から教授。1986年より日赤水上安全法指導員として水難救助法の普及に努 める。これが水難学の創設につながった。水難学会では2011年より10年間会長を 務めた。現在、長岡技術科学大学大学院教授、一般社団法人水難学会理事。
14 2025 vol.14 G&U Prologue 下水道事業とマンホール蓋における課題 全国で大雨が頻発する近年、下水道施設の 中でもマンホールが被害を受けるケースが目 立ちます。では、どんなマンホールが被災し、 いかに対策を考えていくべきなのでしょうか。 国土技術政策総合研究所が行った被害状況の 整理と安全対策のあり方の検討について、そ の後の取り組みを含めて安田将広下水道研究 室長にご紹介いただきました。 下水道被害の9割以上がマンホール ――まず、大雨に伴うマンホールの被害につ いて教えてください。 令和元年東日本台風(台風19号)での管路 被害の多発を踏まえ、国土技術政策総合研究 所ではその後、同年までの約10年間で大雨災 害に遭った68団体を対象としたアンケート調 査を実施しました。その結果、毎年のように 下水道の被害が発生し、特に東日本台風では 約90件の被害があったことが明らかになりま した。被害箇所の内訳を見ると、管きょは比 較的少なく、総数の9割以上をマンホールが 占めていました。 マンホールの被害は、排水能力を超える雨 水が下水道に流入し、内圧が上昇することで 生じます。特に大口径かつ延長が長い下水道 管きょは、大雨で急激に空気や水が押し込ま れると、強い衝撃圧がマンホールの内側にか かるのです。 主な被害はマンホール蓋の飛散、マンホール 周辺の舗装の破損/隆起、マンホールの浮上 /ずれの三つに分類でき、件数は舗装の破損 /隆起が最も多くなっています(図1)。浸入水 の影響と考えられますが、分流式汚水管のマン ホールにも被害が見られました。 被災した管路は大半が2000年以前に布設さ れたもので、それ以降のものは被害が少ない 傾向にありました。マンホール設置数の減少 もあると思いますが、日本下水道協会が策定 した「下水道マンホール安全対策の手引き (案)」が平成11(1999)年に周知され、圧力解 放蓋の設置が進んだ効果と考えられます。 大雨に伴う マンホール蓋の 被害状況と 安全対策の現在 安田 将広 氏 国土技術政策総合研究所 上下水道研究部 下水道研究室長 H21 台風18号 H23 台風15号 H25 台風26号 H26 台風8号・前線 H26 台風19号 H27 台風11号 H27.9 関東・東北豪雨 H28 台風9号 H28 前線・台風16号 H29 台風18号 H29 台風21号 H30 台風21号 R1 台風19号 0 20 40 60 80 100 マンホールの 浮上/ずれ マンホール周辺の 舗装破損/隆起 マンホール蓋の 飛散 60 40 20 0 図1 マンホールのみの被災件数(被害内容別) 平 受勾蓋配圧受力蓋密解閉放不蓋明無 回 答 平 受勾蓋配圧受力蓋密解閉放不蓋明無 回 答 平 受勾蓋配圧受力蓋密解閉放不蓋明無 回 答
15 2025 vol.14 G&U 大雨に伴うマンホール蓋の被害状況と安全対策の現在 蓋の種類(表1)と被害内容の関係を見て みると、飛散した蓋の多くは平受蓋でした。 これは圧力を逃がすための蓋の浮上機能がな かったか、あっても一定の位置で止める力が 弱かったか、そのあたりが原因かなと思われ ます。一方、舗装の破損は勾配受蓋のマンホ ールに多く見られました。食い込み力が強い だけに、錆びなどで固着して蓋が外れなくな り、周辺の舗装ごと浮き上がったのではない かと考えられます。 実際の被害から解析モデルを構築 ――調査結果はどう活用されたのでしょうか。 被災メカニズムを踏まえた「危険度簡易判 定表(例)」(表2)を作成した上で、各マンホ ールの安全対策を検討するための「安全対策 検討フロー図(案)」(図3)をまとめました。 先ほどの「安全対策の手引き(案)」でも危険 地点や優先度の判定表が示されているのです が、より定量的な判断基準を設定しています。 基準作りにあたっては、大雨時におけるマ ンホール内の流出解析を行い、その結果を活 用しました。流出解析については、被害を受 けた自治体にご協力いただき、管路施設の配 置や当日の降雨などを踏まえつつ、マンホー ルの被災状況を再現した解析モデルを構築し ました。その中から妥当性が確認できたモデ ルを使い、マンホール間隔や管きょ口径など の構造条件を変えながら、5年確率降雨(= 5年に1度の確率で発生する大雨)が降った 場合の内圧を算定したという流れです。 組立マンホールの水密性能を判断基準に 一方で、マンホール蓋の耐圧力についても 分析を行いました。どの程度の内圧がかかっ たら「蓋の飛散」「舗装の破損」「浮上」が発生 するのかということです。 舗装の破損は、蓋から十分な排気がなされ ていない状況で内圧が高まり、マンホールの 隙間から空気や水が漏出することで生じると 考えられます。組立マンホールの部材接合部 には一定の水密性能が求められている(日本 下水道協会規格より)ため、その値を超えた ときにリスクが高まると判断し、基準として 採用しました。 以上の流出解析と判定基準を組み合わせて 作った危険度簡易判定表(例)では、4項目の 構造条件を点数化し、合計点数が360点を超 えた場合に「危険」と判定します。もちろん合 計点数が高いほど危険性も高くなります。 優先順位に沿って適切な蓋への取り替えを 実際には、マンホールは非常に数が多いの で、優先順位を付けた上で対策を進めること になろうかと思います。そこで作成したのが 表1 マンホール蓋の種類及び概要 表2 危険度簡易判定表(例) 排気口 排気桝 排気管 マンホール 浮上防止用自動錠 排気・排水 圧力 蝶番 上段勾配面: 過剰な食い込 み力を抑制 下段勾配面: がたつきを防止 蓋 枠 蝶番 浮上ロック 自動錠 (裏面) 種類 図 概要 勾配受蓋2) くさび効果で、蓋の外周と枠 の内部とが傾斜接触面でかみ 合い、蓋が枠に食い込むもの。 がたつき防止が可能。 圧力解放 蓋1), 3) 勾配受蓋に浮上防止用自動錠 を設けることで、圧力が作用 したときでも蓋が飛散せず圧 力を解放するもの。 次世代型 圧力解放 蓋4) 圧力解放蓋の勾配受部分を改 良し、「食い込み制御」と「が たつき防止」とを両立させた もの。0.1MPa以下でマンホー ル内の圧力を解放できる能力 を有する。 格子蓋 蓋が格子状になっていて、排 気量を確保しやすい構造にし たもの。 排気口1) 必要な排気量がマンホールの みでは確保できない箇所で、 排気管及び排気口を設け、排 気量を確保するもの。 小 空気圧 大 マンホール間隔 50m 100m 150m 200m 400m 40点 100点 170点 400点 745点 マンホール蓋の 空気孔面積 100cm2 50cm2 10cm2 5cm2 0cm2 5点 15点 100点 130点 455点 管渠の口径 1000mm 1500mm 2000mm 2800mm 3600mm 10点 30点 60点 75点 100点 管渠の接合 管頂 管底 100点 150点 判定 合計 点 基準点数 360 点 1) 日本下水道協会「下水道マンホール安全対策の手引き(案)」(1999年3月) 2) 日本下水道協会「下水道施設計画・設計指針と解説 前編 −2019年版−」 (2019年9月)§4.3.4.マンホールふた 3) 日本下水道協会「日本下水道協会規格 下水道用鋳鉄製マンホールふた (呼び300~900)JSWAS G-4-2009」(2009年3月) 4) 下水道新技術推進機構「次世代型マンホールふたおよび上部壁技術マニ ュアル」(2007年3月)
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