35 2023 vol.13 G&U いわしを煮る「いわし釜」、風呂を沸かす「風 呂てっぽう」など、人々の暮らしに深く根ざ した製品を製造してきました。 こうした中、同社に大きな転機が訪れまし た。及川社長は次のように振り返ります。 「昭和40年代後半に私の父と、ある青年デ ザイナーが出会い、意気投合して弊社の製品 を作ることになりました。そのデザイナーと は、金属工芸家で今も活躍されている廣瀨 愼 まこと さんです。それまで、このあたりでは、ど の工場でも同じような製品が作られていまし たが、彼の手により現代的なデザインが次々 と生みだされ、造形の美しさでも高い評価を 得るようになりました。南部鉄器にデザイン がもたらされた、画期的なできごとでした」 伝統技法の「釜焼き」を応用 “ネイキッドフィニッシュ”の「上等鍋」 デザイナーの起用後、同社は商社経由で海 外輸出を始め、製品はアメリカ、ヨーロッパ、 オーストラリアなどでも流通するように。平 成に入ってからは、自社開発の鉄鍋や鉄瓶な どの新製品も充実させました。 鋳物業界でも「これ以上の進化は難しい」 と思われていた南部鉄器。しかし、及源鋳造 の挑戦は続きます。2003(平成15)年に、完全 無塗装の鉄鍋、「上等鍋」の製品化に成功した のです。 元来、鉄鍋の製造では、錆止めのため表面 に漆などの塗料を焼き付ける方法がとられて いました。一方、鉄瓶の製造では、表面を高 温で焼き付けて酸化皮膜を形成する「釜焼き」 という伝統技法が用いられています。 同社は「ノンケミカルで、より安全・安心 な鉄鍋をつくりたい」との思いから、鉄鍋に 釜焼きの技法を応用。酸化皮膜を施す製法の 開発に取り組み、数年間の苦心の末、見事に 成功しました。職人の経験や勘を頼りにして いた燃焼温度などの管理を数値化し、特許も 取得しました。 ▲1900年ごろの及源鋳造 ▲ 南部鉄器を代表する鉄瓶。有名スポーツ選手やモデルがSNSな どで発信したこともあり、鉄瓶で沸かした白湯が体に良いと再 び注目を浴びている。及源鋳造は、職人が伝統的な技法でつくる 一点ものから日常使いに適したリーズナブルなもの、IH対応な ど、さまざまタイプをそろえる。写真は今年新発売の「鉄瓶まろ みアラレ1L(IH対応)」 ▲釜 焼きによる金気止め(900℃の炭火で鉄表面に酸化皮膜を形成 する防錆技術)を応用した独自の技法“ネイキッドフィニッシュ” ▲ ネイキッドフィニッシ ュで製造した「ネイキ ッドパン」。無塗装のた め、表面は従来の南部 鉄器のような黒ではな く、鉄本来の色になっ ている
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