Close UP Part 2 鉄蓋の腐食メカニズムと金属材料の防食技術 18 2023 vol.13 G&U 化もピークアウトもしないのです。これは他 の腐食環境にはない、下水道環境に固有の非 常にシビアな特性だと言えるでしょう。 一般に、大気暴露している鋼表面には錆層 が形成され、徐々に成長していきます。この 錆層が保護的な役割を果たすことで、時間と ともに腐食の速度が緩やかになり、あまり進 まなくなります。中性環境では、酸素が母材 の表面に届かなければ腐食しないため、錆層 がバリアとして働くのです。橋梁などの大型 鋼構造物に使用されている耐候性鋼はこのメ カニズムを巧みに利用したものになります。 しかし下水道環境では、そのような良質な 保護性の錆層は生成されません。マンホール 蓋などに析出する錆はスポンジのようにガサ ガサで、緻密性、環境遮断性がほとんどなく、 水も酸素も酸も通過しますから、錆がない状 態と同程度に素地の腐食が続きます。これは、 錆層に酸性の結露水が留まり続けていること などが理由であると推測されています。 蓋の腐食がもたらす固着・段差のリスク 固着メカニズムの解明に向けて共同研究 ――マンホール蓋が腐食することで、具体的 にどのような問題が生じるのですか。 腐食が進むと、マンホール蓋と受枠が圧着 する勾配面に生じる錆層によって、固着や段 差が生じることが知られています。豪雨など の際に管路の内圧が上がると、蓋は少し浮上 して圧力を逃がすことで安全性を保つように なっています。しかし、蓋と枠が固着してい ると、内圧がある程度まで高まり固着力を失 った時に、蓋が一気に弾け飛ぶ危険がありま す。 固着していると、マンホール内の点検など 必要な時に蓋を容易に開けられませんし、無 理して開けたとしても、硬い錆のせいで嚙み 合わせが悪くなりますから、元どおり閉めら れずに受枠との段差ができます。すると、上 を走る車両が蓋を跳ね上げることもあります し、段差自体が交通事故を招きかねません。 蓋の開け閉めをしなくても、錆の発生分だけ 体積が増えますから、腐食が進むにつれて徐 々に蓋が枠から持ち上がり、段差が生じる危 険性も十分想定されます。 金属同士の固着は、よくボルト・ナットの 例が取り上げられますが、蓋の固着や段差も この体積膨張に起因した同じメカニズムで起 こるものと考えられます。日本では、マンホ ールの多くが車道下に設置されるため、なる べくガタツキをなくすよう、近年は蓋が受枠 にぴったり収まるよう精密に製造されていま す。受枠との接触が緩い蓋であれば固着も段 差も生じにくいのでしょうが、必要な機能性 を追求した結果として現在の仕様になったの ですから、固着現象は新たに克服すべき課題 として取り組むことが求められます。 腐食環境では時間経過とともに 固着力が強くなり、段差量も大きくなる ――その課題解決に向けて、具体的にどのよ うな研究が行われているのでしょうか。 ■マンホール蓋と大気における腐食量の推移 腐食量(mm) 0.0 0.1 0.2 0.3 0 2 4 6 8 10 経過年数(y) マンホール蓋① マンホール蓋② 大気(海岸地域) 大気(内陸地域) ▲マンホール蓋と受枠に段差が生じた事例
RkJQdWJsaXNoZXIy NDU4ODgz