17 2023 vol.13 G&U イオン)による腐食を引き起こします。 もちろん、中性環境下であっても酸素があ れば酸化力は働きますから、中性腐食と酸性 腐食、両方の組み合わせで進むとも言えます。 どちらが優勢的に起きるかは環境側のpHが 左右しますが、酸性腐食の方がより短期間で 激しいダメージを母材に与えます。 ――硫化水素の存在とマンホール蓋の結露が 大きな影響を及ぼすのですね。 硫化水素の濃度やpHは、マンホールの場 所ごとに大きく異なります。普通に下水が流 れている場所では、都市部でも濃度はそれほ ど高くありませんが、圧送管の吐出し口など 滞留した汚水が一気に排出されるような場所 は、時には50ppmを超える高い濃度になりま す。 下水中の汚濁物質に存在する細菌類の中で、 硫酸塩還元菌という細菌が硫化水素を生成す るのですが、さらにその硫化水素に硫黄酸化 細菌が作用して硫酸をつくります。硫酸がで きると、溶液のpHは1程度まで下がり、非常 にシビアな腐食環境になります。 また、水がなければ腐食反応は起きません から、結露はいちばん厄介な存在だと言えま す。マンホール内部は多くの場合、湿度が高 くジメジメしていますから、地表側とマンホ ール内の温度差により、マンホール蓋の裏面 にたびたび結露が生じま す。 G&Uさんがすでに研 究で明らかにされていま すが、マンホールの中の 湿度は腐食反応に大きな 影響を及ぼします。特殊な電極構造を用いて、 その腐食によって生じる電流から大気腐食の リスクを測定・評価できる「ACMセンサ」と いうセンサがあります。これを実際のマンホ ール蓋に設置し、結露が発生している時期と 発生していない時期の腐食電流を計測した結 果、同じマンホールでも前者は後者の105倍 以上の高い電流値となりました。硫化水素濃 度が低くても結露が生じると、海岸付近での 腐食に相当する腐食電流が流れることが確認 されています。 蓋の腐食は一定の速度で進行し続ける ――腐食の量や速度はどのように変化してい くのでしょうか。 これもG&Uさんが長年研究されている成 果を公表されていますが、下水道環境では鉄 系材料の腐食量は経過時間に比例して増大し、 腐食速度はずっと一定であることがわかって います。つまり、腐食反応はいつまでも、鈍 ▲ACMセンサ まま吹き付けて被覆する方法です。 粒と粒の間に空孔(空気の穴)がで きることから、粘度の低い塗料を染 み込ませて封孔処理を行うことが必 要になります。封孔処理の後にさら に塗装するのが一般的で、一種類の 塗料で封孔と塗装を同時に行う場合 もあります。 明確な基準はないものの、一般的 に被覆材の厚さが1mm以上のもの を「ライニング」と呼びます。「シ ートライニング」は、ポリエチレン やポリプロピレンなどの樹脂をシー ト状に成形して張り付ける手法です。 「常温硬化ライニング」では、エポ キシ樹脂やポリエステル樹脂などを 塗り、常温硬化させて皮膜を形成し ます。 材料置換では、耐食材料としてス テンレス鋼が多く使用されています。 また用途によっては、ニッケル合金 やチタン合金が使われることもあり ます。 上記の一般的な手法をベースにマ ンホールふたに適した被覆防食と材 質置換を検討する必要があります。 このほか、マンホールふたの防食 対策として、ふたの内側に「中ふた」 を設置する手法も採用されています。 管路内の環境とふた近傍の環境を遮 断することで、ふたの裏面と硫化水 素との接触が避けられ、腐食を抑制 することが期待できます。 また、塩害等が懸念される場合は、 ふた表面に防食対策等を施す場合が あります。 マンホールふたの腐食メカニズム 水分が存在する環境で腐食は進行 マンホールふた裏面の腐食は、「硫 化水素を起因とする酸による腐食 (酸性腐食)」と「酸素と水による腐 食(中性腐食)」に分けることがで きます。両者に共通しているのは結 露が生じることです。水分が存在し ない環境下では腐食は進行しません。 酸性腐食とは、下水環境特有の硫 化水素を起因とした腐食のことです。 酸による腐食では、結露水中に硫化 水素が溶けこみ、硫黄酸化細菌の働 きで硫酸が生成します。硫酸は水素 イオンと硫酸イオンに解離し、腐食 原因物質である水素イオンが防食層 へ浸透して、母材(鋳鉄)まで到達 すると腐食が始まります。母材の表 面には酸化鉄などが生成し、赤錆で 表面が覆われた状態になるのです。 一方、中性腐食とは、金属特有の 酸素と水のある環境下の腐食のこと です。酸素と水による腐食では、結 露で生成した水膜中に酸素が溶け込 み、これが腐食原因物 質となって防食層へ浸 透します。溶存酸素が 母材まで到達すると、 溶存酸素還元反応によ る腐食が進行し、母材の表面は赤錆 で覆われた状態になります。 環境の腐食性をモニタリングする ためには、腐食が起きると流れる電 流(腐食電流)を計測する「ACM センサ」が活用されています。硫化 水素濃度や温度・湿度なども同時に 測り、それらと腐食電流の相関関係 を見ることが可能です。上のグラフ では、前半の結露がない時は0.001 μA以下であり、後半に結露が発生 すると電流が増加して10μA以上に なっています。5日経過以降、再び 結露がなくなると急激に電流が低下 しており、結露の発生が腐食に影響 していることが、如実に見て取れま す。 明確な性能評価の基準化が課題 設置基準を整備する必要も マンホールふた裏面の腐食対策に 関する今後の課題としては、明確な 断面構造 ▲腐食が進んだマンホールふた ▲ACMセンサ 膜塗装 金属めっき+塗装 金属溶射+塗装 母材 母材 母材 塗装 30~100㎛ 塗装 30~100㎛ 金属めっき 30~100㎛ 金属溶剤 50~200㎛ 膜塗装 1000㎛ ▲結露は外気温(蓋の表)と管路内(蓋の裏)の気温差によって発生しやすい 塗膜に傷やはがれがあるとより腐食が進行する ▲A 結 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 0 ■マンホール内の年間平均硫化水素濃度 年間平均硫化水素濃度(ppm) 0 10 20 30 40 50 60 70 0 0.3 0.2 0.6 0.1 5 65 55 21 24 15 30 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 商業地域ビル街 圧送管吐出口下流 人孔番号 ■ACMセンサで計測した腐食電流と結露の関係 対策として、ふたの内側に「中ふた」 を設置する手法も採用されています。 管路内の環境とふた近傍の環境を遮 断することで、ふたの裏面と硫化水 素との接触が避けられ、腐食を抑制 することが期待できます。 また、塩害等が懸念される場合は、 ふた表面に防食対策等を施す場合が あります。 マンホールふたの腐食メカニズム 水分が存在する環境で腐食は進行 マンホールふた裏面の腐食は、「硫 化水素を起因とする酸による腐食 (酸性腐食)」と「酸素と水による腐 食(中性腐食)」に分けることがで み、これが腐食原因物 質となって防食層へ浸 透します。溶存酸素が 母材まで到達すると、 溶存酸素還元反応によ る腐食が進行し、母材の表面は赤錆 で覆われた状態になります。 環境の腐食性をモニタリングする ためには、腐食が起きると流れる電 性能評価の基準化が挙げられます。 現状、防食ふたの性能確認の方法 は各メーカーで異なるため、自治体 が積極採用するに至っていません。 ▲ACMセンサ ▲ACMセンサで計測した腐食電流と結露の関係 結露の発生が腐食に影響 測定時期:夏期、平均硫化水素濃度:3.2ppm 腐食電流 経過日数 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 500 0 1 2 3 4 5 6 7 400 300 200 100 0 ppm 結露なし 結露なし 結露あり 硫化水素濃度 腐食電流( ㎂) 硫化水素濃度( ) 腐食電流( ㎂) 硫化水素濃度( )
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