G&U技術広報誌vol.13

Close UP Part 2 鉄蓋の腐食メカニズムと金属材料の防食技術 16 2023 vol.13 G&U 鋳鉄でつくられたマンホール蓋は、「腐食」と いうリスクを宿命的に背負っています。腐食 が発生し進行するメカニズム、過酷な下水道 環境の特殊性、蓋の腐食が引き起こす固着・ 段差といった課題への取り組みの状況などに ついて、横浜国立大学の岡崎慎司教授に伺い ました。 マンホール蓋を狙う2つの腐食メカニズム 過酷な下水道環境と結露が大きな影響力 ――下水道のマンホール蓋に腐食が発生し、 進行するメカニズムを教えてください。 マンホール蓋は鋳鉄製です。鉄をベースに した金属は、基本的にはどのような環境でも 腐食します。腐食は鉄の酸化反応の一種であ り、酸化して損耗していく進行状態が腐食過 程ということになります。 マンホール蓋の腐食には、酸素と水による 「中性腐食」と、酸による「酸性腐食」の2つ のメカニズムがあります。金属を酸化させる 原因物質は違いますが、どちらの腐食も水の 存在は絶対に必須です。 中性腐食は通常、中性環境下で生じます。 マンホール蓋に付着した結露などに溶け込ん でいる酸素が、塗装の傷や剥がれから母材に 到達すると、酸化作用を受けた母材の鉄が鉄 イオンになって水に溶け出していき、固形状 の錆(酸化鉄)になって析出します。 一方の酸性腐食は、下水道環境特有の硫化 水素に起因する腐食です。マンホール内の硫 化水素が蓋の結露に溶けると後述する微生物 の特殊な作用によって硫酸がつくられます。 すると結露のpH(水素イオン濃度)が低下し、 非常に厳しい酸性環境になるため、酸(水素 国立大学法人 横浜国立大学 工学研究院 機能の創生部門 固体の機能 教授/博士(工学) 岡崎 慎司 氏 マンホール蓋の 腐食メカニズム ▲ 酸素と水による「中性腐食」と、硫化水素に起因する「酸性腐食」 装」のうち「電着塗装」は、エ シ系やアクリル系などの塗料に し、高電圧をかけて被覆する方 、形状の複雑なところでも均一 装することが可能です。一方、 塗装」は、エポキシ系やアク 系などの樹脂を粉状のままエア などで吹き付けて被覆する方法 塗膜を厚くできることが特長で 被覆方法の用語ではありません 数百μm以上の塗装は「厚膜塗 と呼ばれることがあります。 っき」には「電気めっき」と「溶 っき」があり、膜厚を厚くでき 融めっきが防食用として多く使 れています。 射」は、溶融した金属を粒状の まま吹き付けて被覆する方法です。 粒と粒の間に空孔(空気の穴)がで きることから、粘度の低い塗料を染 み込ませて封孔処理を行うことが必 要になります。封孔処理の後にさら に塗装するのが一般的で、一種類の 塗料で封孔と塗装を同時に行う場合 もあります。 明確な基準はないものの、一般的 に被覆材の厚さが1mm以上のもの を「ライニング」と呼びます。「シ ートライニング」は、ポリエチレン やポリプロピレンなどの樹脂をシー ト状に成形して張り付ける手法です。 「常温硬化ライニング」では、エポ キシ樹脂やポリエステル樹脂などを 塗り、常温硬化させて皮膜を形成し ます。 材料置換では、耐食材料としてス テンレス鋼が多く使用されています。 また用途によっては、ニッケル合金 やチタン合金が使われることもあり ます。 上記の一般的な手法をベースにマ ンホールふたに適した被覆防食と材 質置換を検討する必要があります。 このほか、マンホールふたの防食 対策として、ふたの内側に「中ふた」 を設置する手法も採用されています。 管路内の環境とふた近傍の環境を遮 断することで、ふたの裏面と硫化水 素との接触が避けられ、腐食を抑制 することが期待できます。 また、塩害等が懸念される場合は、 ふた表面に防食対策等を施す場合が あります。 マンホールふたの腐食メカニズム 水分が存在する環境で腐食は進行 マンホールふた裏面の腐食は、「硫 化水素を起因とする酸による腐食 (酸性腐食)」と「酸素と水による腐 食(中性腐食)」に分けることがで きます。両者に共通しているのは結 露が生じることです。水分が存在し ない環境下では腐食は進行しません。 酸性腐食とは、下水環境特有の硫 化水素を起因とした腐食のことです。 酸による腐食では、結露水中に硫化 水素が溶けこみ、硫黄酸化細菌の働 きで硫酸が生成します。硫酸は水素 イオンと硫酸イオンに解離し、腐食 原因物質である水素イオンが防食層 へ浸透して、母材(鋳鉄)まで到達 すると腐食が始まります。母材の表 面には酸化鉄などが生成し、赤錆で 表面が覆われた状態になるのです。 一方、中性腐食とは、金属特有の 酸素と水のある環境下の腐食のこと です。酸素と水による腐食では、結 露で生成した水膜中に酸素が溶け込 み、これが腐食原因物 質となって防食層へ浸 透します。溶存酸素が 母材まで到達すると、 溶存酸素還元反応によ る腐食が進行し、母材の表面は赤錆 で覆われた状態になります。 環境の腐食性をモニタリングする ためには、腐食が起きると流れる電 流(腐食電流)を計測する「ACM センサ」が活用されています。硫化 水素濃度や温度・湿度なども同時に 測り、それらと腐食電流の相関関係 を見ることが可能です。上のグラフ では、前半の結露がない時は0.001 μA以下であり、後半に結露が発生 すると電流が増加して10μA以上に なっています。5日経過以降、再び 結露がなくなると急激に電流が低下 しており、結露の発生が腐食に影響 していることが、如実に見て取れま す。 明確な性能評価の基準化が課題 設置基準を整備する必要も マンホールふた裏面の腐食対策に 関する今後の課題としては、明確な 性能 現 は各 が積 金 てい マン 働き ふた 効な 腐 こと にお に関 した いま も、 の整 マ 造物 腐食 生し せん る環 どを 設置 ます 腐食 ての りま くだ の 対策事例 スクを引き起こします。た ると歩行者の支障となり、 ねません。錠や蝶番が腐食 飛散する危険性が高まりま ることで、改築サイクルが がるものと考えます。 ルふたの腐食対策をご紹介 食対策に関する今後の方向 ふたの 理 ■ 被覆防食工法の断面構造 ▲腐食が進んだマンホールふた ▲ACMセンサ 遮断 属な る 遮断 属な る い金 、腐食 塗装 厚膜塗装 金属めっき+塗装 金属溶射+塗装 母材 母材 母材 母材 塗装 30~100㎛ 塗装 30~100㎛ 塗装 30~100㎛ 金属めっき 30~100㎛ 金属溶剤 50~200㎛ 厚膜塗装 200~1000㎛ 【執筆】 研究開発部 宮田 義一 ▲結露は外気温(蓋の表)と管路内(蓋の裏)の気温差によって発生しやすい 塗膜に傷やはがれがあるとより腐食が進行する ※「下 及び 人日 道事 ▲ACMセンサ 結露の発生が 測定時期:夏 腐食 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 0 1 2 結露 腐食電流( ㎂) 硫化水素濃度 ( )

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