8 2022 vol.12 G&U Close UP Part 1 DXを支えるデータとは What’s the value of DX ? DX(デジタルトランスフォーメーション)は、 仕事の効率性を上げたり、その価値を高めたりす ることにつながるものだと考えています。有名な 例としては「スマート農業」があります。農作物を 育てる環境のデータを自動測定によって集め、適 切な肥料や水をあげる。農家の方は、自動化によ って肉体労働から解放されます。解放されるとい うことは、その代わりに余暇の時間が増える、生 活が豊かになる、という価値が生まれるわけです。 私はDXを「早い」「安い」「うまい」(高品質) を謳う「牛丼」に例えることがあります。早さ(速さ) というのは、「距離÷時間」なので、遠く離れたと ころからでも、すぐに情報を取れるということに なります。それからもちろん、低コスト化が図れ、 品質が向上しないと意味がありません。ただ、これ らのことは、DXを「手段」として見た場合の特長 です。大事なのは、DXを導入して効率性を上げる ことによって、どういう価値が得られるのかを追 及することです。「What’s value ?」という問いに 対して、答えていく姿勢を持たなければなりません。 技術と人、受注者と発注者、企業間をつなぐ 人と人とをつなぐ、あるいは技術と人をつなげ るということもDXは可能にします。わかりやす いのはスマートフォンでしょうか。メーカーや開 発者側に対して、ユーザーが様々なレビューを伝 えることによって、スマホは進化してきました。 技術・プロダクトを提供する側と使う側が、割と わかりやすくつながっています。では、これを下 水道事業に当てはめた場合はどうなるのか。技術 を提供するのは主に民間企業でユーザーは地方公 共団体ということになりますが、強い結びつきが あるとは言えない状況にあり、両者の「共創」に よるイノベーションは今まであまり起きていませ ん。DXの導入にあたっては、こうした受注者・発 注者の垣根を超えていくことが期待されます。 下水道事業が新設中心だった時代、つまり「1 周目」においては、コンサルタントが設計し、ゼ ネコンやメーカーがモノをつくり、維持管理会社 が管理・運営をするという流れでした。一方、こ れからは「維持管理起点のマネジメントサイクル の時代」に入るため、スタート地点が維持管理に なります。この「2周目」においては、維持管理の 履歴のデータを共有・活用した上で設計に着手す るサイクルをつくっていく必要があり、企業側は 一体的になるのが理想的です。しかし、実際に企 業が合併したり提携したりするのは簡単なことで はありません。そうしたときにDXを活用するこ とによって、異なる業種の企業間でも、常に対話 し合えるような関係を構築することが可能になる かもしれません。 データはオープンに。コアとなる存在が必要 維持管理を起点としたサイクルの中でDXを導 入する上では、維持管理情報をなるべくオープン にするというルールをつくっていく必要がありま す。そうしたデータは維持管理をしている会社に とっては大事なリソースだとは思いますが、オー プンにして共有しないとDXの良い部分が生かし きれません。 データを共有・活用していくためには、高い信 頼性と透明性を担保した、コアとなる組織やプラ ットフォームが必要です。様々なデータを提供し たときに、単に右から左へと流すのではなく、そ れらを組み合わせることで新たな価値をつけて返 してくれる―。そうしたことを担う、中心的な Introduction 東京大学大学院 工学系研究科都市工学専攻 下水道システムイノベーション研究室 特任准教授 加藤 裕之 氏
RkJQdWJsaXNoZXIy NDU4ODgz